季節

花を見る


ソメイヨシノは散りましたが、枝垂れ桜や八重桜が満開の盛岡です。

こうしてみると、桜ひとつでもかなり長い間楽しむことができます。桜って何か特別な魅力を持っていると感じます。


以前、桜満開のこの連休前に忘れられない出来事がありました。

ガンを患い痛みをこらえた父を車に乗せ、病院に向かいました。何度も入退院を繰り返した末の入院。たぶんもう家に戻ることはできないだろうなぁ…と漠然と思いながら、車が揺れないように静かに走ったあの日の事。

それからわずか2カ月余りで父は旅立っていきました。


いつも通るその桜並木は、母と私にとっては辛い思い出が蘇る場所となりました。
それ以来母はお花見をしていません。その場所でなくとも、桜は見たくないと言います。桜の花がその時を連想させるからです。

あれから長い年月が流れ、車窓からなら良いということで、買い物がてら桜を見てもらうことが出来ました。

「やっぱり桜は綺麗だね。あの時はそんな余裕が無かったから何も感じなかった。」結局そんな話になりました。

桜は見ていて記憶にあるけど、心は愛でる気持ちではなく、ただ見ていただけ。父の容態を、今後を、ただただ案じていたのでした。


満開の桜を見上げていたら、今までずーっと堪えてきた感情が、一気に噴き出たように私の目から涙が溢れました。やっと今、その時の不安や辛さ、どうしようもない切なさを感じる事ができました。

母を支えようと、『自分は大丈夫。悲しんでいる場合じゃない。』とずっと思ってきたのです。


溢れた涙によって浮かび上がったものを今、じっくり感じていこう。やっと出てきてくれたこの感情をしっかり味わっていきます。

何年経っていたとしても遅くはありません。今だからできること。
それができる今に感謝します。